ニューオリンズジャズとの出会

ジャズのクラリネット奏者は相手を音で覚える

2002.6.16 村松淳彦

第2回
<渋谷の喫茶店・スウィング>

水道橋Swingは今は亡き須藤さんの頁を是非ご覧下さい

 その頃、渋谷の百軒店にスウィングという喫茶店がありました。マスタの好意で、コーヒー一杯で、いつまで居てもよく、演奏もできるので、ディキシージャズ・ミュージシャンの溜まり場になっていました。レコードなどは、手に入らない時代です。例えば、新宿の駅の周りには、ビルと呼べる建物はなく、バラックの店が建ち並び、戦災孤児の男の子が、たくさん、靴磨きをしていました。今では、とても想像できませんね。
 小生など、金がないですから、もっぱら、その渋谷のスウィングにいき、コーヒー一杯で、1日中ジャズを聴いていました。
 そこには、アメリカンミュージックと呼ばれる、赤い10インチ版のレコードがありました。それは、当時、日本に3枚しかないレコードで、それには、Wooden Joe Nicholas(trumpet)とAlbert Burbank(clarinet)のShake It And Break It(Weary Bluesの原型)が入っていました。ぞっとするようなアンサンブルで、小生が生涯聴きつづける演奏になってしまいました。それには、Lead Me On、Careless Loveが入っていて、それら演奏が、New Orleans Jazzの典型と、小生はかんがえています。
 小生には多くのジャズの演奏を聴くうち、日本には、演歌というものがありますが、ジャズは米国の演歌だと感じるようになりました。理由は、日本の演歌を聴くと、誰が歌っているか、すぐに判ります。ジャズも、米国の人が演奏しているの聴くと、誰が演奏しているかがすぐに判ります。また、日本の演歌の場合、他の人の持ち歌を誰かが歌うと、今ひとつしっくりきません。ジャズも、その曲に、合わないフィーリングの人が演奏すると、今ひとつしっくりしないのです。これは、演歌もジャズも、自分自身の持つ声(音)と、自分自身のからだが根底に持つメロディを用いて歌って(または演奏して)いるからに他なりません。そこで、小生が、気が付いたことは、ジャズプレーヤは、聴いたらその人とわかる音をもたないといけない、ということでした。
そのような、ジャズのなかで、New Orleans Jazzは、アンサンブルをつくりながら、そのなかで、一人づつのプレーヤをフィーチャしていく演奏方法で、そのアンサンブルにニューオリンズ独特のフィーリングをもつ音楽です。そのようなニューオリンズジャズ・プレーヤのなかで、きれいなアンサンブルを、最も多く残しているのがジョージルイスです。したがって、ジョージルイスは、最も偉大なプレーヤの一人に違いありません。
 小生の学生時代、ジャズを始めてからの夢は、その「ジョージルイスのような米国のプレーヤに、一度自分の演奏を聴いてもらい、感想をいってもらえたらいいな」ということでした。大卒初任給が1万円にいかず、渡米に100万円近くを要し、特別な金持ちでないと、渡米できない時代の話です。

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